生まれ変わった社交ダンス ドレス

デフレ下で貸出残高が減り続ける中で、銀行が抱え込んだ不良債権の劣化を防ぎ、期末で必要な引き当て・処理資金を捻出できるかどうか。
とりわけ、一○○一年三月期に向けて、激しい春嵐が吹き荒れた。 前年から続く大手経営不振企業の再建・再生の手掛かりを付けることができるか、四月のペイオフ解禁までに間に合うか。

年頭の会見で、首相のK純一郎が「金融危機を起こさないためにはあらゆる手段を講じる」と宣言したこともあって、しばらくは日経平均株価も安定していた。 だが、一月十八日に発表されたダイエーの再建策が、不十分ではないかとの疑心が市場で深まり、銀行株売りに拍車がかかっていく。
ヘッジファンドの空売り攻勢もあって、一月五日には、たちまち九千五百円割れとなる。 この間、政策委の委員たちも金融不安対策に頭を痛めていた。
一月十五、十六の両日開いた政策委会合では、N銀執行部が執念を燃やす公的資本再注入も議論に上った。 まず、複数の委員が「(銀行の)自助努力により自己資本充実が図れない先には、公的資本の再注入もやむを得ないのではないか」と述べている。
これに対して、別の委員が「ここで注入しても、金融機関の貸し出しが直ちに増加すると期待するには無理がある」と、公的資本再注入だけでは抜本改革にならないと首を振っている。 次の一月七、八両日の政策委会合。
「当面のもっとも重要な課題は、マクロの金融政策ではなく、ミクロのプルーデンス(信用秩序)政策である」との意見で一致、ある委員は「N銀が『最後の貸し手』二月七、八両日の政策委会合の後、カナダ・オタワのG7会議に向けて飛んだH。 会議では日本が名指し批判されることは避けられたが、採択されたG7声明では世界経済に「リスクは依然残っている」との文言が加えられた。
その意味するところは、当時、デフォルト危機に直面していたアルゼンチンを指し、国際金融資本市場に引き続き大きな影を落とす「日本リスク」を指していた。 Hはゼロ金利解除の時がそうであったように、思い込むと信念で行動する。
恐らく、この時もそうだったのではないか。 各国の蔵相やC総裁が日本の金融不安を見詰める目の厳しさを改めて感じたHは、帰国後、間もなく自分で動いた。
同月十八日夕、来日したブッシュ大統領のために官邸で開いた歓迎レセプションの場で、HはKに歩み寄り、「少し話をしたいんですが」と申し入れた。 N銀執行部が公的資本再注入に執念を燃やしたのは、単に金融政策への追加圧力をかわす狙いばかりでもなかった。
金融機関に与信能力が回復すれば、金融政策の波及効果も改善されるはずとの理屈もあった。 Hはこう語っている。
「量的緩和を十分にやって、それが貸し出しを通じて企業や家計に回っていくようになるまで、まだ効果は出ていない。 それを起こすことこそまさに政策であり、構造改革をやってくれれば民間の需要は必ず出てくる」機能の機動的発動に万全の体制をとっている旨を対外的にアピールすることが必要」と述べている。

こうした雰囲気を受けて、N銀執行部は一つの賭けを打つ。 実は、Hの直談判の前に、Kの腹は「今は動かず」で固まっていたとされる。
総裁との会談の二日前の十七日夜、Kは閣内で公的資本再注入に積極的な塩川、竹中、逆に注入に慎重なYと、それぞれ個別に秘密会談を持ち、閣内意思統一を図っていた。 その結果、Yの主張をベースとした「現時点では再注入の必要はないが、必要があれば果断なく注室で首相・総裁会談が開かれた。
テーマは銀行への公的資本再注入の是非。 N銀総裁が金融庁や、注入財源を握る財務省の頭越しに、金融システム対策を首相と直談判するのは極めて異例だ。
金融システム問題での政府・N銀のやりとりは錯綜していた。 公的資本再注入問題ではN銀だけでなく、財務相の塩川正十郎や経済財政担当相の竹中平蔵が積極的な立場だった。
これに対し、金融担当相のY伯夫は強く反発していた。 これまでの政策の整合性から言って、公的資本再注入は不要で、現行の預金保険法の範囲内で粛々と対応可能と説明していた。
一方のデフレ対策では、塩川は一転、N銀に国債買い切りオペ額の増額を含めたN銀の追加量的緩和を迫り、竹中もインフレ目標導入を求めて、Hに硬軟両面から圧力をかけていた。 加えて、自民党内からは依然、N銀法再改正の圧力が寄せられていた。
Hは、修着状態の構図の中で事態を打開するには、ここで追加緩和に応じる代わりに、公的資本再注入の政治決断を首相に求めたとみられる。 肉を切らせて骨を切る。

一十八日には政策委決定会合を控えていた。 首相が領くなら、政策委全員を何時間かけてでも説得し、市場が文句を付けられないような思い切った追加緩和策を打ち出してみせると。
だが、Kは額かなかった。 結果的に、総裁の直談判は空振りとなった。
N銀の追加緩和策だけが先食いされた格好でもあった。 さすがに政策委たちは腹に据えかねたのか、政府への批判が相次いだ。
二月二十八日の議事要旨でみる限りでも、かなりその立腹ぶりが伺える。 入する」で意見をまとめたという。
公的資本再注入の必要性を今、政府が認めることは、金融危機の存在を是認することでもあり、市場の混乱を加速しかねないとの判断だった。 日米首脳会談でも、金融問題への直接の言及は避けられた。
結局、同月二十七日にまとまった政府の総合デフレ対策では、金融システム対策として「資本増強を含むあらゆる措置を講じる」との決意を盛り込み、公的資本再注入も否定せずとの姿勢を示したものの、現行の預金保険法に基づく危機対応を越える予防的注入や強制注入の枠組み作りに取り組むかどうかの判断は先送りした。 代わりに、金融庁の大手銀行に対する特別検査の強化、株の空売り規制強化、整理回収機構による不良債権買い取りの積極化、銀行等保有株式取得機構の積極活用、業種別ETF導入などの項目が、これまたメニュー方式でかき集められた。

N銀は翌二十八日開いた政策委会合で、追加緩和を決めた。 当座預金残高十兆十五兆円の量的目標は変えないものの、従来の一般的な「なお書き」に代えて、「上記目標にかかわらず、一掃潤沢な資金供給を行う」と記した。
年度越え対策だ。 財務省の要求を受け入れて、長期国債買い切りオペは月額一兆円に増額。
ロンバート貸出の公定歩合適用(従来は十日間)も、年度末から新年度にかけての一カ月半に限って、すべての営業日に適用する例外を認めた。 ▼デフレ脱却について「金融政策がその有効性を発揮しうるためにも、政府が財政規律について市場の信認を得ることが重要」。
▼決定会合前に、財務相が国債買い切りオペ増額を求めた点「政府の金融政策に関する意見は、政策委で意見を言う枠組みが定められている。 この枠組みから離れて具体的な発言を公にすることは、政府・N銀の経済政策運営に対する信認を損ないかねない」。
これらの意見を背景に、Hは政策委議長として、政策委に出席した政府代表に注文を付けた。 「最近の政府首脳のご発言については、N銀法の枠組みからみて問題があるばかりか、わが国の経済運営全体に対する信認を著しく傷つけていると言わざるを得ない。
ルールを厳守して頂くよう重ねてお願いしたい」。 この時の政府代表は、財務省が財務副大臣の谷口隆義、内閣府が審議官の小林勇造。

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